僕は深夜にタクシーの中から見る光景が好きで好きでしょうがないのです。

オレンジ色に光る東京タワーだって、うす明るい首都高だって、夏の日が昇ってしまった早朝のレインボーブリッジだって、好きで好きでしょうがないのです。

その朝日の中で、鈴木くんに学内で会うことは二度とないんだと、後悔するのです。
高層ビルの反射する窓も、日光に浸かった遠い建物の群れも、青々とした木々も、僕は何かに感傷するのです。

僕はそんな気持ちが好きで好きで、寂しくなるのです。

文字数・219字
書いた時期・20160730

文章練習

深夜のレインボーブリッジを渡ったことがある人には、わかるかもしれない。

車の座席に沈み込んで座って内地の方を見ると、高層ビルの赤い電灯が水平に並んで、まっすぐな赤い一本の線になって見えます。
僕は、その線に東京というところの星がどうあるかを感じるのです。

125字
書いた時期・20160730

文章練習

 「先輩を探しているんです」
顔を上げずに、青年は言った。
青年は細身に黒いフライトジャケットの布を余らせて、ハイエースの助手席に座っていた。
 「先輩ってどんな人?」
 「先輩は素晴らしい人です」
携帯ゲーム機の画面に目を落としたまま、青年は続けた。ゲームの音楽がスピーカーから漏れ続けている。
 「待ち合わせしてたんですけど、時間になっても来ないんです」
 「連絡も取れないの?」
青年は車の中に落ちている、スマートフォンの携帯式充電器を一瞥すると、ため息を吐いた。
すぐにゲーム機に視線を戻して低い声で、「取れません」と言った。
車の横を、登校中の中学生がたくさん通って行った。
二人組の男子中学生が話しながら歩き過ぎた。声変わり前の高い少年の声が、車の中に入り込んでくる。
私は彼らの背中で揺れるテニスラケットをぼーっと見ていた。

そのうち、私は青年が先輩と呼ぶ人物を探す素振りすら見せないことに呆れてしまった。
手持無沙汰になって、私は車内を観察し始めた。
助手席には青年が座っている。カップホルダーは飲みかけのペットボトル飲料で埋まっていた。多分この開封済みの飲料の中に、青年が口をつけたボトルはないんだろうなと思った。
運転席と助手席の間のアームレストの部分にはプラスチックの書類入れを一番下に、地図や薄汚れたタオルが積まれている。
車の床には少年誌が何冊も積まれ、空のペットボトルが転がっている。私が座っている席より後ろの座席は倒されていて、バケツや掃除道具が乱雑に置かれていた。
車内を一言で表すと、「汚い」。それ以外の選択肢はない。

汚さの分析をしているうちに、ゲームの音楽が聞こえなくなっていた。
青年が一度車から降りて、運転席に座りなおした。青年は慣れた手つきでキーを回した。どうやら車を出すようだ。
 「探すあてはあるの?」
 「ないことは無いんです」
青年のぼんやりとした答えに、先輩は多分見つからないだろうなと思った。

 

多分今年の1月くらいに書いたやつ

文字数:801字