2016-01-01から1年間の記事一覧

練習

タクシーはレインボーブリッジを走る。ビルが夜の闇のなかに溶け込むから、明かりで光る窓だけ浮いて見える。それがそれぞれ後ろに流れていって、妙な立体感を生んだ。ビルひとつがひとつの銀河みたいな、星の塊が蠢いているように見える。それなのに、圧迫…

練習

一人の青年が立っていた。白い開襟シャツのボタンをさらに開け、小麦色に焼けた肌を風に曝している。シャツの裾をスラックスに入れないタイプらしい。足元が革靴ではなくオニツカタイガーの派手なスニーカーであるところから、勤め人ではないことがわかった…

僕は深夜にタクシーの中から見る光景が好きで好きでしょうがないのです。オレンジ色に光る東京タワーだって、うす明るい首都高だって、夏の日が昇ってしまった早朝のレインボーブリッジだって、好きで好きでしょうがないのです。その朝日の中で、鈴木くんに…

文章練習

深夜のレインボーブリッジを渡ったことがある人には、わかるかもしれない。車の座席に沈み込んで座って内地の方を見ると、高層ビルの赤い電灯が水平に並んで、まっすぐな赤い一本の線になって見えます。 僕は、その線に東京というところの星がどうあるかを感…

文章練習

「先輩を探しているんです」顔を上げずに、青年は言った。青年は細身に黒いフライトジャケットの布を余らせて、ハイエースの助手席に座っていた。 「先輩ってどんな人?」 「先輩は素晴らしい人です」携帯ゲーム機の画面に目を落としたまま、青年は続けた。…