練習

タクシーはレインボーブリッジを走る。

ビルが夜の闇のなかに溶け込むから、明かりで光る窓だけ浮いて見える。それがそれぞれ後ろに流れていって、妙な立体感を生んだ。ビルひとつがひとつの銀河みたいな、星の塊が蠢いているように見える。それなのに、圧迫感がある。
この塊に意思があって、僕たちの乗っているタクシーを押し潰そうとしているんじゃないかと思ってしまう。

隣を見れば安藤も窓の外を見ていた。
綺麗だね、と言うと間髪いれずに「君の方が綺麗だよ」と返ってきた。こういう時にはこの言葉を返すというプログラミングがなされているようなやけに機械的な返答だった。
少しだけ切なくなって、優しい言葉をかけたくなった。

名前を呼んで、安藤は振り向くだろうか。

文字数・313文字
書いた時期・さっき