文章練習

鈴木君へ鈴木君が学生時代の話をすると、僕はそこに僕がいたらな、と思うのです。どれだけ願っても僕の生まれは遅いんですけど、思わずにはいられないんです。 どれだけ苦しかったとかいう話も、どうしても悲しかったという話も、僕は全部キラキラして見える…

文章練習

鈴木君へそろそろ僕の誕生日なのですが、覚えているでしょうか。鈴木君に祝ってほしいけれど、あなたは忙しいから時間がとれないでしょうね。これといって欲しいものは無いですが、ワガママを言えるなら僕を祝ってくれる人がいたらと思います。僕の誕生日を1…

文章練習

鈴木君へ僕はとても卑屈で自己評価が低いから、なにをされてもとても希望が薄く思えるんです。誰かが僕を助けてくれると明確に言ってくれた時、僕に学びの、他の諦めている何かの幸福を与えると言った時、とても自分の存在を認められなくなるのです。 こんな…

練習

コンビニでカップアイスをレジに持っていくと、「すいません、スプーン二つつけてもらえますか」と言って店員に怪訝な顔をされた。 公園につくと、よし、と意気込んでビニール袋をがさごそとさせてスプーンを取り出した。何をするのかと見ていた。スプーンの…

「おかえり」そう言ったのは、僕につきまとってここまで連れてきたあの亡霊の男ではなく、全く見知らぬ男だった。小柄だがやけにがっしりした体格で、二束の榊を抱えている。上から下まで黒づくめの服を着込んでいた。後ろにいた庄司が先輩、とつぶやいた。…

練習

タクシーはレインボーブリッジを走る。ビルが夜の闇のなかに溶け込むから、明かりで光る窓だけ浮いて見える。それがそれぞれ後ろに流れていって、妙な立体感を生んだ。ビルひとつがひとつの銀河みたいな、星の塊が蠢いているように見える。それなのに、圧迫…

練習

一人の青年が立っていた。白い開襟シャツのボタンをさらに開け、小麦色に焼けた肌を風に曝している。シャツの裾をスラックスに入れないタイプらしい。足元が革靴ではなくオニツカタイガーの派手なスニーカーであるところから、勤め人ではないことがわかった…

僕は深夜にタクシーの中から見る光景が好きで好きでしょうがないのです。オレンジ色に光る東京タワーだって、うす明るい首都高だって、夏の日が昇ってしまった早朝のレインボーブリッジだって、好きで好きでしょうがないのです。その朝日の中で、鈴木くんに…

文章練習

深夜のレインボーブリッジを渡ったことがある人には、わかるかもしれない。車の座席に沈み込んで座って内地の方を見ると、高層ビルの赤い電灯が水平に並んで、まっすぐな赤い一本の線になって見えます。 僕は、その線に東京というところの星がどうあるかを感…

文章練習

「先輩を探しているんです」顔を上げずに、青年は言った。青年は細身に黒いフライトジャケットの布を余らせて、ハイエースの助手席に座っていた。 「先輩ってどんな人?」 「先輩は素晴らしい人です」携帯ゲーム機の画面に目を落としたまま、青年は続けた。…