文章練習

鈴木君へ

鈴木君が学生時代の話をすると、僕はそこに僕がいたらな、と思うのです。どれだけ願っても僕の生まれは遅いんですけど、思わずにはいられないんです。
どれだけ苦しかったとかいう話も、どうしても悲しかったという話も、僕は全部キラキラして見えるんです。
僕の学生時代だって綺麗な思い出だったはずですけど、鈴木君の話を聞いたあとじゃ全部磨りガラス越しに見ている気持ちになって、たいしたことないことき思えます。
僕は鈴木君が羨ましいのだと思います。

ところで鈴木君、誕生日当日にたまたま会ったとき、僕にハゲただろうと言ったのはかなり傷つきました。
久しぶりに顔を見たと思っていたら突然の悪口はないと思います。しかも僕の誕生日を忘れていましたね。すごくショックで僕はその後すごく落ち込みました。鈴木君の方こそすごく老けたでしょう。
僕は根に持つタイプですから、絶対何かやり返してやろうと考えています。

文章練習

鈴木君へ

そろそろ僕の誕生日なのですが、覚えているでしょうか。鈴木君に祝ってほしいけれど、あなたは忙しいから時間がとれないでしょうね。

これといって欲しいものは無いですが、ワガママを言えるなら僕を祝ってくれる人がいたらと思います。僕の誕生日を1年でも覚えていてくれるような、そういう優しい人に優しいお祝いの言葉を言ってほしいです。多分、誰も僕の誕生日なんて覚えていないでしょうね。

当日はどうせ一人でしょうけど。
来年は鈴木君が覚えていてくれたらいいな。

文章練習

鈴木君へ

僕はとても卑屈で自己評価が低いから、なにをされてもとても希望が薄く思えるんです。

誰かが僕を助けてくれると明確に言ってくれた時、僕に学びの、他の諦めている何かの幸福を与えると言った時、とても自分の存在を認められなくなるのです。
こんな僕を許してくれる方なんていないと思います。

でも、鈴木君、今度は、今度だけは僕はこの思いをぶちまけずに享受しようと思うんです。
普通の人ならきっと、何も何も思わずに受け入れるんでしょうね。だからそうしようと思うんです。
ありがたくそうするんです。それで、誰かが僕を責めるでしょうか。誰もが僕の影口を叩くでしょうか。それでいいのだと、僕が思えるのでしょうか。
思わなきゃいけないですね。

僕は例え自分の手の届く範囲だとしても、他人の楽しそうなのがにくく思えるのです。
こんな僕を助けてくれると言っても言わなくても、僕は憎いのです。多分、なにがあっても容易く享受できないのです。

練習

コンビニでカップアイスをレジに持っていくと、
「すいません、スプーン二つつけてもらえますか」
と言って店員に怪訝な顔をされた。

公園につくと、よし、と意気込んでビニール袋をがさごそとさせてスプーンを取り出した。何をするのかと見ていた。スプーンの封を開けると手に持って地面にしゃがみ込み、地面をごりごりとえぐりだした。
「先輩?何してるんですか?」
「ここに穴を掘ってあげる」
「穴掘ってどうするんですか?」
はて、と先輩は手を止めて首をかしげた。ちょっと考えたが、3秒で考えることを放棄したらしく、また木のスプーンで地面をえぐる作業を再開した。
「好きなものを埋めたらいいよ」
ユウの好きなものを、とつぶやきながらも手は止めない。
公園の土は固く、木のスプーンは通用しないようで全く掘り進められていなかった。先輩はスプーンを逆手に持ちかえた。

 

書いた時期・2017・01・21

文字数・361文字

「おかえり」
そう言ったのは、僕につきまとってここまで連れてきたあの亡霊の男ではなく、全く見知らぬ男だった。
小柄だがやけにがっしりした体格で、二束の榊を抱えている。上から下まで黒づくめの服を着込んでいた。
後ろにいた庄司が先輩、とつぶやいた。呼ばれた男はゆっくりと庄司に近付き、榊を片手に持ちかえると空いた片手で庄司の頭を撫でた。
呆然とした顔の庄司、眩しそうな顔をした先輩と呼ばれた男。
沈んできた夕日が山の間を抜けたのか瞬間的に朱色の光が二人の差しこんできた。やけに特別な間柄を演出しているようなシルエットが僕の目に映し出された。

先輩と呼ばれた男は何も言わずくるりと振り向き、もともと向かっていた墓地へと続く道を静かに歩き出した。
歩幅が大きい訳でも早足に歩いているわけでもないのになぜかその背中が急速に遠ざかって行くので、あわてて庄司が追いかけていった。
僕も追いかけていいものかと悩んだけれど、二人が消えていく道がとても暗くなってきていることに気付いて後を追いかけることにした。
空気が冷たい。手にかいたどんどん汗が冷たくなって温度を奪っていく。自分の靴の底が砂利を踏みつける音が大きく響いていた。
段上に広がっていく墓地は、年々高くなっていくのか、傾斜がきつくなっていく。そのきつい階段をものともせず駆け上がる庄司の白いシャツを着た背中が見えた。
暗くて階段が見えないから、庄司が天に向かって昇っていくような錯覚におちいった。

 

文字数:609

書いた時期:171118

練習

タクシーはレインボーブリッジを走る。

ビルが夜の闇のなかに溶け込むから、明かりで光る窓だけ浮いて見える。それがそれぞれ後ろに流れていって、妙な立体感を生んだ。ビルひとつがひとつの銀河みたいな、星の塊が蠢いているように見える。それなのに、圧迫感がある。
この塊に意思があって、僕たちの乗っているタクシーを押し潰そうとしているんじゃないかと思ってしまう。

隣を見れば安藤も窓の外を見ていた。
綺麗だね、と言うと間髪いれずに「君の方が綺麗だよ」と返ってきた。こういう時にはこの言葉を返すというプログラミングがなされているようなやけに機械的な返答だった。
少しだけ切なくなって、優しい言葉をかけたくなった。

名前を呼んで、安藤は振り向くだろうか。

文字数・313文字
書いた時期・さっき

練習

一人の青年が立っていた。
白い開襟シャツのボタンをさらに開け、小麦色に焼けた肌を風に曝している。
シャツの裾をスラックスに入れないタイプらしい。
足元が革靴ではなくオニツカタイガーの派手なスニーカーであるところから、勤め人ではないことがわかった。良く見ると高校の制服のスラックスだ。
きっと高校2年生か3年生だろう。中学から進学したばかりのような少年の幼い顔ではない。
黒髪の短髪。はっきりとした二重瞼に大きな目に通った鼻筋。
南国風の濃く整った顔だった。

なんとなく、体に爽やかな風を纏っているようにも感じる。
きっと女子生徒からものすごくモテるんだろうな。
そういう青年だった。

そして数年後、青年は突然僕の人生に踏み入ってきて、堂々とそこに居座っている。

僕が伊志嶺青年を見たのはまだ高校生の時だった、という思い出話ということになる。

文字数・359字

書いた時期・20151012

さっきちょっと書き足した